スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

モラトリアムの末の悔し涙

 聡美は間もなく26歳になる。短大を卒業し、OA機器の販売会社で最初はインストラクター、辞める少し前は営業をしていた。
 成績に応じて給与が上がるのはうれしかったが、思うように成績が上がらない月は、ストレスのせいか肌は荒れ、神経性の下痢に悩まされた。「もう限界」と思って、逃げるように会社を辞めたのだった。
「こんど就職するときは、絶対、営業関係はパス。できれば、残業の少ない事務の仕事がいいけれど、しばらくは会社のカの字も聞きたくない。何もかも忘れて、自分の時間を大切にしたい……」
 ところが、映画、バーゲン、温泉旅行、旧友との再会……と、ひと通りのメニューをこなしてしまうと、もう、アトが続かなかった。
 友だちや恋人に会えない平日の昼間が退屈でしようがない。お菓子をポリポリ食べながら、寝そべってレンタルビデオやマンガをむさぼった。
「どうしよう! もう三キロも太ってしまった」
「座敷ブタ」の生活を送ったツケが回ってきた。
「そろそろバイトでも始めて、社会復帰のリハビリをしなくては」
 最初はデパートの販売員のバイト。営業よりはずっとラクに違いないと思って始めたのだが、一日中立ちっ放しというのは、むしろ、重いアタッシュケースを持って営業に回るのよりもハードに思えた。足がバンパンに張って、帰るときにはジーンズがきつくて入らないくらいだった。
 次は座ってできる仕事ということで、ワープロ入力の仕事を選んだ。派遣会社から仕事を紹介してもらった。
「アンタはいくらもらっているんだか知らないけれど、ウチは派遣会社にゴツソリ持っていかれるんだからね。サボってもらっちゃ困るよ。今日は夕方までにこれだけ入力してね」
 ドサッと音がした。入力しなければならない書類が山をなしていた。同じことを朝から晩まで続けるのは、本当にしんどかった。
「労働を売ってお金を得ている……ただ、それだけね。後には疲れが残るだけ」心と体のコンディションは、むしろ辞める前よりも悪くなりそうだった。
「いよいよ本気で就職活動を始める時期だ」と聡美は思った。退職日から2ヶ月が経過していた。
 けれども、まだ、何をやりたいのか、自分自身でよくわからない。営業職はもう懲り懲り。一般事務の求人は、良さそうだなと思うようなところは、たいてい「25歳まで」とか「27歳まで」となっていた。給与も営業と比べると安い。
 試しに事務で募集している会社を2、3受けてみたが、感触は良くなかった。
「どうして前の会社を辞められたんですか?」
「体調をくずしてしまって……。営業の仕事がハードだったので、私には合わなかったんです」
「それで、事務のほうがラクだと思ったんですね。でも、ウチの会社はそれほどラクではないですよ。残業もありますし、少しは簿記の勉強もしていただかないと、仕事が手に負えないかもしれませんね」
 どうも、「ラクをしたい」というホンネをすぐに見破られてしまう。「こんどの会社もまたダメだった」と、うなだれて帰りの道をトボトボと歩いていると、主婦の立ち話が遠くのほうから聞こえてきた。
「近ごろの若い人は気楽なものね。昼間からプラブラしてて……」
 ああ、世間の目は冷たい。なんで悪者みたいに言われなくちゃいけないんだろう。聡美はアパートに着くやいなや部屋に駆け込み、悔し涙がなかなか止まらなかった。ふとんをかぶって、一日中この部屋に隠れていたいと思った。けれども、そうするとますます世の中から取り残されてしまうという焦りもあった。
「前の会社を辞めた後、すでに三カ月もたっていますね。いままで、何をなさっていたんですか。何か勉強でもなさっていたんですか」
「どこも採用してくれなくて、ただ、時間だけがたってしまったんです。お願いです。私を採用してください! ここで断られたら、私はもう、どこへ行ったらいいかわからないんです……」
 どうしようもなくて聡実は叫んでしまった。みじめだった。

福祉の資格
スポンサーサイト
月別アーカイブ
最新記事
カテゴリ
検索フォーム
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。